ボカロPになる人へ伝えたいこと~制作編~

ボカロPになる人へ伝えたいこと~制作編~

2022年8月28日

考え方編準備編を経て、今回はいよいよ制作編です。
ここでは制作の全工程と各工程の概要をお伝えできればと思います。制作の全体感と流れをまずはざっくり把握し、各工程の上達と時短を実現しましょう。

まずは結論から

以下が制作の全工程になります。任意と書かれている工程は、人によりけりです。
経験のある工程、経験はないけど何となくイメージできる工程、経験もないしイメージもできない工程など、様々あるのではないでしょうか。

  • 作詞
  • 作曲
  • 編曲
  • 歌唱(任意)
  • ミックス・マスタリング
  • MV制作
  • MVアップロード
  • グッズ制作(任意)
  • SNS運用

作詞

楽曲に歌詞をつける工程です(曲タイトル含む)。

制作の流れとしては、作曲した後に作詞をする場合と作詞をしてから作曲をする場合の二通りがあり、それぞれ曲先・詞先と呼ばれています。多くの人は曲先で作業しています。

いきなり質の高い歌詞を書いたり、何曲も書き続けることは難しいので、曲タイトル・歌詞になりそうなフレーズ・単語などは日々ストックしておくことをおすすめします。

歌詞が浮かばない場合は曲タイトルを仮決めして、そこから発想を得るという手段もあります。歌詞がある程度まとまってきたり仕上がった段階で、曲タイトルを本決定します。
逆に、曲タイトルが浮かばない場合はまず歌詞を書き進めて、その内容から発想を得るという手段もあります。

作曲

楽曲のメロディーを考える工程です。

考え方は様々です。自分に合ったスタイルを見つけましょう。

  • 鼻歌やハミングのみ。
  • 鼻歌やハミングと同時にギターやピアノで和音を鳴らす。
  • ギターやピアノでコード進行(和音の進行)を考えて、その後に鼻歌やハミング。
  • ドラムでビートを考えて、その後に鼻歌やハミング。

メロディーの動き方から感じる印象にはある程度法則があります。上手く活用しましょう。

  • 音程を跳躍させるとダイナミックな印象に。
  • 音程を跳躍させないと静かで落ち着いた印象に。
  • メロディーをリフレインさせるとその部分が強調されてキャッチ―な印象に。
  • メロディーのリズムは変えずに音程だけを変えると、まとまりや秩序が感じられる。

ボーカロイドの特長は以下の通りです。取り入れるほどボカロ感が強まります。

  • 人間と比べて、音域が実質無制限。
  • 人間と比べて、息継ぎが必要ない。
  • 人間には歌えない速さのテンポでも歌える。

編曲

曲構成や使用楽器などを考える工程です。

作詞や作曲と比べて未経験であることも多く、何をすれば良いのかを掴むまで少し時間がかかります。筆者なりの勘所としては以下の通りです。

曲構成

  • サビ始まりにするか。
  • 短三度転調するか。
  • 二番の構成を一番と変えるか。
  • 落ちサビ入れるか。
  • 大サビ転調させるか。
  • 曲の長さは三分半~四分以内を意識する。
  • BPMの速さよりも言葉数の多さを意識する。

使用楽器

  • まずはイメージしやすいバンドサウンドで組み立てる。
  • ボーカルの邪魔をしないようにドラムとベースを組み立てて、その後にギターなどのコード楽器、最後にアクセントとしてSEなどを組み込む。
  • SE(効果音)を使用する。リバースサウンドやリフター、クラップなどは頻出。
  • エフェクトも使用する。フィルター系は頻出。

その他

  • 良いと思った曲や箇所はよく聴き、その理由を把握しておく。
  • インスト(ボーカル音源なし)があればそれも聴くと勉強になる。
  • バンドスコアなどの譜面を見ると更に理解が深まる。
  • ボーカル以外のパートはボーカルの邪魔をせず、またボーカルの魅力を最大限引き立てるように動く。
  • 歌の動きが少ないパートやないパートは楽器を動かす。逆に動きの多いパートでは楽器を動かさない。
  • 大事なのは、予定調和を減らして飽きさせないように、創意工夫を怠らないこと。ただし、J-POPの様式は崩さないこと。

歌唱(任意)

歌を収録する工程です。

ボカロPの中には本人歌唱バージョンを公開する人もいます。そのような展望がある場合はこの工程を頭に入れておくことをおすすめします。また、ボカロの楽曲はいわゆる歌モノですから、歌わないにしても歌心を知っておくことは大切です。演奏できる楽器があるとその楽器の打ち込みがしやすくなるように、歌が歌えると初音ミクの調教もやりやすくなる、という側面もあります。

レコーディング場所については、自宅で行う宅録や、スタジオ収録が代表的です。
レコーディング方法としては、通しで数テイク録り、それらをコンピング、それでも物足りないところがあればピンポイントで追加収録していくのが効率的かと思います。

音程やリズムは修正しやすいですが、声質や声色は修正が難しい(ガラガラ声など)ため、体調の良い日に一日で録りきることが理想的です。収録時は声質や声色が均一であるか、特に気にするようにしましょう。

収録後はノイズカット、リズム修正、音程修正、音量調整などをしていきます。ボーカルは曲の顔にあたるパートなので、しっかり時間をかけて念入りに仕上げます。

ミックス・マスタリング

曲のバランスを整えて、完成させる工程です。

編曲以上に未経験であることも多く、この作業そのものの存在を知らない人も多いと思います。近年はAIに任せることも増えてきましたが、AIの提案をそのまま採用するというよりは、提案をもとに手動で微調整してあげるくらいが、仕上がりとしては良くなるように思います。筆者なりの勘所としては以下の通りです。

ミックス

  • ノイズや不要な帯域のカット。
  • ボーカルや各楽器の音色の調整。
  • ボーカルや各楽器がどの方向からどのくらいの音量で鳴るかを調整。
  • ボーカルや各楽器のリバーブなどを調整。
  • ボーカルと各楽器、または楽器同士が音域や帯域の面でぶつかっていないか確認。ぶつかっている場合は、どちらかの楽器の帯域をカットしたり、フレーズを変えるなどして解消する。

マスタリング

  • ミックスによって整えた曲の音量・音質・音圧を完成に向けて最終調整する。
  • ミックスを終えた段階よりも良い音質を目指すというよりは、ミックスを終えた段階の音質を維持しつつ音量・音圧を最適化するイメージで作業した方が上手くいきやすい。

MV制作

楽曲に映像を付ける工程です。

楽曲の公開先として代表的なプラットフォームはYouTubeやニコニコ動画になりますが、これらは動画投稿サイトであるため、楽曲を公開する際は映像つきであることがある程度前提となっています。

映像の種類は、ネット文化や音楽という分野そのものとの親和性から、ボカロ界隈ではイラストやアニメーションが選択されやすいですが、最近ではBlenderなどを用いた3DCGも選択されるようになってきています。

映像に関わる人の内訳として、一般的にはイラストレータやアニメータ、CGクリエータのみであることが多いですが、エフェクトにこだわりたい場合は「映像」と界隈で呼ばれている人をさらにつけることもあります。

楽曲制作とはまったく異なるスキルであるために外注するのが一般的ですが、自身で手掛けているボカロPも稀にいます。

代表的な映像の種類

  • フルアニメーション
  • イラスト複数枚
  • イラスト一枚
  • 3DCG
  • リリックビデオ
  • 実写

映像の入手方法

  • フリー素材【費用:なし 効果:小であることがほとんど】
  • 有料素材【費用:ものによる 効果:ものによる】
  • ココナラなどから有償依頼【費用:ほどほど 効果:ほどほど】
  • 業者に有償依頼【費用:ほどほど~高い 効果:ほどほど~高い】
  • 個人イラストレータやアニメータに有償依頼【費用:ほどほど~高い 効果:高い】

MVアップロード

MVをアップロードする工程です。

あまり注目されない工程ですが、見落としたくないポイントでもあります。

ミックス・マスタリングやMV制作に関わるので、MVを公開するプラットフォームが推奨する音量や音質、画質といった情報は把握しておくようにしましょう。

その他にも、サムネイルに何を載せるか、概要欄に何を記載するかなど、考えるべきことは意外と多く、よって時間もとられやすいです。

既存のMVを参考にしつつ、これから公開するMVが最大の効果を得られるように、工夫していきましょう。

グッズ制作(任意)

グッズを制作する工程です。

グッズといえば、Tシャツ、タオル、トートバッグなどがイメージされますが、広く言えばCD制作やストリーミング配信なども含まれると思っています。

駆け出しの頃にグッズから利益を得ることは非常に難しいです。グッズ制作にかけた時間に見合う利益はまず得られません。それでも制作したい場合は利益を度外視して、単純にファンに楽しんでもらうことを最優先にしましょう。

また、特にグッズにこだわりたい場合はOEM(Original Equipment Manufacture)も検討してみましょう。オリジナル性と品質をより高められる可能性があります。

グッズとの関わり方として代表的なものは以下の通りです。ボカロPの本分は楽曲制作であるため、そのための時間を確保することと、上記した利益度外視の観点から、筆者は一番下の完全委託をおすすめします。

  • 制作・販売・発送・管理のすべてを自己完結させる。【手間:大 利益:大 在庫リスクあり】
  • 制作は業者、販売・発送・管理は自分で対応する。【手間:中 利益:中 在庫リスクあり】
  • 制作・販売・発送・管理のすべてをネットショップに委託。【手間:小 利益:小 在庫リスクなし】

SNS運用

SNSを運用する工程です。

最低でもTwitterとInstagramは運用したいところです。

SNSにおける一個人の見え方やイメージは発信内容や頻度によって変わります。代表的なものは以下の通りです。

  • 神秘的・ミステリアス:発信頻度が低い。内容は制作過程など、制作に関することが中心。
  • 親近感:発信頻度が高い。内容は制作に限らず多岐に渡る。

どちらが正解ということはないですが、ボカロPに多いのは前者です。「匿名で顔出しせずに一人で創作する」という制作スタイルも関係しているように思います。

憧れのアーティストの発信傾向を真似てみたり、「ファンからどのように見られたいか」という理想像から逆算して発信することも重要なのですが、自身の見え方やイメージを意識しすぎるあまり、SNSが負担とならないように気をつけましょう。ボカロPの本分は楽曲制作であり、制作には心身の健康が必須です。無理のない範囲で運用しましょう。

まとめ

ここまで記載してきたように、ボカロPが制作のためにこなさなければならない工程は多く、必要とされるスキルも多岐に渡ります。どうしても苦手だったり不得意だと感じる工程に関しては、AIの導入や外注によって進めていくことも視野に入れると良いでしょう。

筆者は初めての作詞と作曲を弾き語りによって進めたのですが、そこから完成にもっていくまでに要した技術習得および作業のための時間は想像以上に膨大(特に編曲・ミックス・マスタリング)で、楽曲制作が嫌いになりそうでした。

すべてを一人でこなすのがボカロP

ボカロPは言うなれば十種競技の選手のようなものなのかもしれません。

十種競技の選手は、100m、走幅跳、砲丸投、走高跳、400m、110mH、円盤投、棒高跳、やり投、1500mのすべてについて、得意・不得意があったとしても一定の水準を満たしたうえで、一人でこなします。大会を勝ち抜くためには、十種それぞれの記録を伸ばしつつも、得意種目では確実に結果を出せるように鍛錬したり、あるいは得意種目を増やしていく必要があります。100m走の選手のように、得意な競技その一種目のみを鍛錬していく、という取り組み方とは異なります。

ボカロPについても、基本的には同じです。すべての工程について一定のスキルを身に付けて、一人で取り組む必要があります。ただし、いざとなれば外注できるという点は異なるため、頭の片隅に入れておきましょう。

一度は全工程を一人でやってみる

予算とスキルに応じて、外注できる工程(特にMV制作)もありますが、一度は全工程を一人でやってみることをおすすめします。以下のようなメリットがあるからです。

  • 自身の得意・不得意や好き・嫌いを工程別で把握できるようになるため、今後の楽曲制作における傾向と対策を立てられるようになる。
  • 自身の得意・不得意や好き・嫌いを工程別で把握できるようになるため、外注すべきはどの工程で、かつその工程の全部なのか一部なのかなど、その範囲が明確に判断できるようになる。
  • 外注をした際に、外注を受けた側の立場や心情にも寄り添うことができるため、やり取りに齟齬が生じにくくなる。

未経験の工程を外注すると、他人任せになりやすく、これはトラブルのもとになります。何も知らない人が何でも知ってる人へお願いをすることになるわけですから、齟齬が生じるのも当然です。

また、齟齬なく気持ちよく作業してもらうことは、納品物のクオリティの向上につながるだけでなく、今後また外注を受けてもらえるかどうかにも関わってきます。

外注はおそらく大多数のボカロPがいつか通る道です。その時に備えて、繰り返しになりますが一度は全工程を一人でやってみることをおすすめします。

終わりに

各工程に関する技術は実践によってのみ獲得できます。どんどん実践していきましょう。

技術に関しては、まずは基準を身に付けることが大切です。覚えることややるべきことは多いですが、好きな楽曲の完全コピーから始めると躓きにくいかと思います(特に編曲・ミックス・マスタリング)。困った時にその楽曲が基準となってくれるためです。

筆者はいきなりオリジナル曲で実践に入ったのですが、困った時に基準となってくれる楽曲がないために、とても苦労しました。

以下のような手順で完全コピーを進めることで、その基準を獲得できるかと思います。

  • 好きな楽曲を用意する(インスト音源もあるものだとなお良い)。
  • ボーカルとドラム・ベースなどのリズム系楽器をコピーする(編曲)。
  • ギターやピアノなど、コード弾き系の楽器をコピーする(編曲)。
  • SEやエフェクトなどをコピーする(編曲)。
  • ボーカルや各楽器の音量・鳴る方向、リバーブなどをコピーする(ミックス)。
  • 楽曲の音質や音圧を変えずに、好きな楽曲と同じ音量に調整する(マスタリング)。

はじめから全工程を習得している人はいません。実践の中でひとつずつ、着実に身に付けていきましょう。
あなたがより良い楽曲をより早くリリースし、ボカロPとしてより早くデビューしてくれることを願っています。