実際にボカロPになるまで、そしてボカロPになってから知ったことが沢山ありました。この記事では、筆者がボカロPになるまでに知っておきたかったことを順序立ててまとめています。まずは考え方編です。思い悩んでいる時間を創作のための時間に変えて、ボカロPデビューへと向かっていきましょう。
目次
高水準な楽曲をコンスタントにリリースする
近年のネット社会において、一定の支持を獲得している人の特長として、高水準なコンテンツをコンスタントにリリースしていることが挙げられます。ボカロPやDTMerのみならず、YouTuberなどクリエイター全般に見受けられるものだと思います。
質(高水準なコンテンツ)と量(コンスタントなリリース)の両立。これが目指すべき活動スタイルだと考えます。
量を担保しながら質にもこだわり続ける
質と量の両立とは、もう少し噛み砕いて言えば量を担保しながら質にもこだわり続けることです。これにより、活動を点ではなく線にしながら、かつその線を太くしていくことができます。
質より量という言葉がありますが、コンテンツで溢れかえる近年のネット社会において、質の低い楽曲をハイペースでリリースしたところで認知はしてもらえません。万が一、認知してもらえたとしても、楽曲の質が低いままでは活動の線もずっと細いままです。これでは遅かれ早かれ見限られてしまいます。
一方で、量より質を意識して、たとえば一年に一回、質の高い楽曲をリリースしたとしましょう。この場合、リリース直後は認知をしてもらえる可能性があります。しかしながら、リリースが一年に一回では活動が線ではなく点になってしまうため、他のコンテンツに埋もれ、そのうち忘れられてしまいます。
また、質は他者によってその評価が変わるものですが、量は変わりません。絶対であり正義です。
よって、大事になるのが量の担保を前提に質も高めていくことなのです。現状、認知され続ける方法はこれしかないように思います。
YouTuberの正攻法にみる質と量の両立
~駆け出しの頃~
毎日投稿によって量を特に担保し、地道に認知を獲得していきます。この時、質にもこだわっていると、伸びるコンテンツや自分ならではのコンテンツをリリースできる可能性が高まります。そういったコンテンツはさらなる認知の獲得だけでなく、他のYouTuberとのコラボや企業案件の獲得にもつながります。
~一定の認知を獲得した後~
逆に投稿頻度を落とし、量は最低限にセーブしたうえで質をより一層意識したコンテンツ作りに切り替えます。これまで、質にこだわることによって見えてきた自身の独自性や強みをさらに活かし、すでに獲得している認知をより強固なものにしていきます。
目標を決めると担保すべき質と量の基準も決まる
- 3年以内にメジャーデビューしたい
- 2年以内にチャンネル登録者数100万人を達成したい
- ライフワークとして長く活動していきたい
たとえば以上のような目標を比べてみると、それぞれの目標達成に向けて取るべき行動が変わってくることはイメージしやすいと思います。この時、すでにその目標を達成している人の行動や数字を参考にすると、自分が担保すべき質と量の基準も見えてくることが多いです。
そもそも目標を設定しない人もいると思うのですが、何でもいいので目標は決めておくことをおすすめします。目標がないと無目的にだらだらとしてしまいがちです。
また、目標を決める際はあわせてマイルストーン(中間目標地点や節目となるポイント地点)も設定しておくと、なお良いです。適宜見直すことで、目標と現状をしっかり把握できるようになります。
制作期間を決めて量を担保する
一曲の制作にかける期間を決めておきましょう。決めないと、やはりだらだらとしてしまいがちです。創作には正解がないので、延々と修正作業をすることもできてしまいますが、結果的に質もさほど上がらず、量も減ってしまうことが多いです。制作期間を決めておけば、これを防ぎながら量を担保することもできます。
期間を決めるうえでまず把握しておきたいのが、自分が自由に使える時間と実際に使った時間です。一曲の制作にかかった時間を計測しておくと、楽曲の制作依頼などを受けた時、スケジュールを策定するうえでの参考になります。
制作は食事・睡眠・仕事・家事などを除いた時間ですることになります。たとえば、三ヶ月で一曲を制作するとして、自由な時間が毎日2時間(制作以外の時間は22時間)ならば、一か月を30日として、三ヶ月で約180時間を確保することができます。この自由時間に対して、実際に使った時間の記録を取りつつ、制作作業自体の効率化も図りましょう。
また、家事など制作以外の時間を短縮することができれば、その短縮分を自由時間に充てることもできますから、こちらもあわせて試みてみることをおすすめします。
月並みですが、大切なのは、何としても楽曲を制作するという意志と行動です。たとえ、自由時間が毎日10分しかないとしてもです。何をすれば(何をしなければ)、毎日10分の自由時間でも楽曲を完成させられるのか考え、分析し、創意工夫することは量の担保だけでなく、質の向上にもつながります。諦めるのではなく、食らいつきましょう。
予算を決めて質を担保する
創作にお金はつきものです。一曲あたり、一年あたり、あるいはプロジェクト単位でも構いません。予算はある程度決めておきましょう。立てた目標によって予算は変わるものですが、楽曲の質は使える金額に左右されやすいので、予算も多いに越したことはないという点は踏まえておくと良いでしょう。
一般的な予算感として、短期集中型なら高額、長期安定型なら低額になる傾向があると思いますが、筆者としては以下のような理由から長期安定型をおすすめします。
- どれだけ自信があっても、楽曲を評価するのは他者であり、その他者をコントロールすることもできないため、活動がいつ軌道に乗るかは見当がつかない。よって長期化をある程度視野に入れて予算を編成をしておくことが肝要。
- たまたま一曲バズったとしても、資金不足でその後の活動がしりすぼみになったり、活動不能になってしまっては意味がない。
- 質の高いコンテンツを量産するためには、ある程度長期の活動が不可欠。
予算は余裕資金から
予算は余裕資金から工面し、生活費には手を付けないことをおすすめします。暮らしに余裕がなくなると、自由な創作(意欲作や挑戦作などハイリスクハイリターンな創作)を避けて、置きにいった創作(流行ものや定番ものなどローリスクローリターンな創作)になりがちです。しかし、そういった二番煎じな創作はごまんとあるため評価もされづらく、結果的に収入にもつながらず、心も満たされず、余裕は一層なくなってしまいます。
創作活動は、日々の暮らしが保障されていて、心身ともに健やかでいて初めて成り立つものです。時に、破滅的な暮らしに憧れたり、そこから生み出されたコンテンツが伸びたりすることもありますが、そのような流行の多くは一時的なものです。また、そもそも創作のために常に身を滅ぼさなければならない人生が果たして良いものなのか、といった問題もあります。
暮らしあっての創作活動であることを理解するようにしましょう。
音楽活動の収入は予算に充てられるか
音楽活動の収入を予算に充てることはかなり難しいです。駆け出しの頃は特におすすめできません。ファンがいなかったり、少ない中で、たとえばCD販売、Tシャツなどのグッズ販売、サブスク配信などを行っても、時間が取られるだけでそこから得られる収益はごく僅か、費用対効果が良くないからです。よって、駆け出しの頃は楽曲制作に時間をかけ、実績の獲得を重視するようにしましょう。
なお、どうしてもグッズ等を販売したい時は、目的を収益ではなく、ファンに楽しんでもらうこととし、そのうえで収益にもつながればラッキー、くらいに考えておくのが精神衛生的にも良いかと思います。
また、音楽制作に付随するこのような関連分野の取り組みは、金銭的に余裕があるからこそできることでもあります。先ほどの話にもつながりますが、音楽活動から得られる収益が少ないうちは、アルバイトや会社員としての得た収入の一部(余裕資金)を充てることをおすすめします。
駆け出しの頃を抜けて、高水準な楽曲をコンスタントにリリースしていると、その活動を見た企業やクリエイターから楽曲提供依頼が来るようになることもあります。そういった案件はグッズ販売などよりも遥かに報酬額も高いため、納得できる条件であれば引き受けましょう。この段階に到達できれば、音楽活動によって得られた収入を予算に充てることもできるようになってきます。ただし、目先の報酬額に釣られて、イメージダウンにつながるような依頼は受けないように心がけましょう。
あまり意味がないので、完璧は追い求めない
駆け出しの頃に思い描く完璧は、経験者からすれば完璧ではないことがほとんどで、あまり意味がありません。重視すべきは、行動することと行動の中で改善していくことです。
完璧を追い求め過ぎると、ボカロPになる前に色々と考えすぎてデビューを断念してしまったり、デビューまでに時間がかかってしまったり、あるいは一曲あたりの制作期間が膨大になってしまったりと、基本的に良いことがありません。
機材や音源にこだわり過ぎたり、過剰なインプット作業なども控えるようにしましょう。歌や楽器、音楽理論の習得なども制作と並行で構いません。
否定してくる人はまったく気にしなくていい
自分がずっと大好きで大切にしてきた音楽や、つくった楽曲を、誰かが否定してくるかもしれません。残念ながら、これは避けることができません。否定することが楽しい、という人が本当にごくごく少数ではあるものの、確かに存在するからです。
しかし、まったく恐れる必要はありません。楽曲や音楽から、あなたの全てを知ることはできないからです。“楽曲や音楽の否定=あなたの否定=あなたが大切にしているものの否定”とはなりません。
否定してくる人の相手をする必要もありません。基本的にはスル―で問題ないのですが、気になるようであればミュート・ブロック・コメントの削除などで対応しましょう。
実世界と違い、インターネット上では関わる相手をある程度選ぶことが出来ます。そして、あなたが相手すべきは否定してくるごくごく少数ではなく、好意的な意見をくれるその他大勢です。ただし、インターネット上で関わる人は良くも悪くも素性が知れませんから、どのような意見も真に受け過ぎないことが大切です。
また、一度でも楽曲を公開すると分かることなのですが、一番辛いのは“無関心=反応がもらえないこと”です。このように考えると、否定する人たちはわざわざ自分の時間を割いて楽曲を聴いたうえで反応までしてくれているわけですから、ある意味でこれはとてもありがたいことです。
アンチがついて一人前などとよく言います。有名人や人の集まるコンテンツを狙って出没するためです。対象を叩いてファンを悲しませたり、自分に注目を集めたりすることが目的だと思われますが、裏を返せば、アンチである自分が存在すること=対象の人気や集客力の高さをファンに可視化して伝えているようなものです。アンチなんかに負けまいと、ファンが結束をより強める場合もあります。
相手を傷つけようとしてとっている行動が裏目に出てしまうその様は滑稽ですらあります。
最後に、繰り返しになりますが、知り合いでもない人からの否定は恐れる必要も、相手をする必要もありません。
終わりに
ここまで様々書いてきましたが、まずはどう思われるかなんて気にせずにサクッと一曲リリースして、ボカロPデビューしてしまいましょう。
一曲目からバズることは中々ないですし、かといってまったく再生されないということもないと思います。もどかしさを感じるかもしれませんが、一方で再生数が少ないうちから、否定的なコメントつくこともまずありませんから、その点は安心できると思います。肯定的なコメントや評価はパラパラともらうことができると思います。ボカロ界隈をこのように捉えておけば、ハードルが下がって思い悩みもいくらか和らぐのではないでしょうか。
余談ですが、筆者の一曲目もまさにその範疇でした。そして、全力の自信作がバズらなかった拍子抜けと悔しさ、否定されることを恐れていたのにそれがまったくの杞憂だったこと、肯定的なコメントに震えるくらい感動したこと、など様々ありましたが、それ以上に、これまでずっと思い悩んできたその時間があまりにも長過ぎた、と悔やんだことを今でも鮮明に覚えています。
この記事が、これからボカロPになろうとしている人のあと一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。